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隣に座る女子は舟をこいでいる。担任はチョークで正確な図を描くのに夢中になっている。僕の席は最後列で、授業中にうしろから覗きこまれる心配はない。
しかし、僕の前に座っているのは王様だった。
手提げ袋のポケットに入っている百円玉は、きっと王様のものだ。僕は学校にお金なんか持ってこない。昼休み、ランドセルの中身が散らばった時に、なにかの弾みで入ってしまったのだろう。
王様は、百円足りなくなっていることに気がつくだろうか。庶民よりもリッチな王様は、こづかいの使い方も派手だった。数日、気づかなければ、学校で落としたとは考えないかもしれない。そうなれば、僕は百円丸もうけだ。
けれども、案外早く気づくかもしれない。王様はケチだ。百円玉が一枚足りないと騒ぎ出すと厄介だ。探偵気取りで犯人探しをされてはたまらない。
授業が終わったら、すぐに返したほうがいいだろう。この百円玉は僕のものじゃない。
そう考えて、はたと気づく。
果たして、王様は僕のことを信じてくれるのだろうか。僕が百円玉を差しだしたところで、お金が欲しくて盗んだ泥棒だと決めつけられはしないだろうか。
正直に返して、泥棒扱いされるのは嫌だった。王様は絶対君主だ。いまの僕の家来の地位すら剥奪されるかもしれない。
僕のクラスには、レンという名前の外国人少年がいる。背が低く、痩せていて、日本語もあまり通じない。王様はレンのことを不法入国とか不法滞在と決めつけている。目の前にいても、そこにいないように無視をする。
泥棒呼ばわりされた挙げ句に、レンのように無視されるのは嫌だった。
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