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僕の母親は、王様の母親に気に入られていた。
『あのタイプには逆らわないのが一番よ』
王様の親が王様ならば、家来の親も家来なのだと思った。
王様の母親はPTAの会長だ。学校の保護者の中で一番いばっている。王様の父親は教育委員会にいるらしい。去年の担任が学校を辞めたのは、王様一家のお眼鏡に適わなかったからだと、もっぱらの噂になっていた。
誰にも止められない王様。
僕はいつまで家来を続ければいいのだろう。
時々、大声をあげて叫びだしたくなる。でも、想像するだけで我慢しておく。
算数の時間は退屈だった。分数のおさらいなんて、一体なんの役に立つんだろう。
計算は計算機が、翻訳は翻訳ソフトがやればいい。音声入力一つで知りたいことがすぐにわかる世の中で、紙でできた分厚い辞書の使い方を学ぶ意味がわからない。
いまの僕たちに必要なのは、そんなカビ臭い知識や訓練なんかじゃない。
黒板をながめるのに飽きて下を向くと、目の端にキラリと白く光るものが見えた。
机のわきにかけてある、持ち帰り用手提げ袋のポケットの中だった。ひょいと手を伸ばして中を確かめる。
光っていたのは百円玉だった。
僕は、背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
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