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いつしか、算数の授業は終わっていた。起立の掛け声で、慌てて立ち上がると椅子を倒しそうになる。
僕はどうしたらいいんだろう。
担任がいなくなるや否や、王様は声を張り上げて命じた。
「おい。誰も外に出るな」
みんなは、何事かと王様を振り返る。クラス中の視線が自分に注がれているように思えて、僕の胸の中で心臓が悲鳴をあげる。
「俺の百円玉が一枚足りない。机の中をひっくり返しても、全員で探し出せ。もし見つからなかったら、このクラスの中に泥棒がいるってことだ」
王様の命令は絶対だった。
クラスのみんなは、しかたなく自分の机のまわりを確かめている。僕も教科書やノートをめくって必死に探すフリをしていたが、口はからからに渇いて、舌が喉に張りつきそうだった。
いまから、百円玉を手提げ袋のポケットから取り出して返すなんて、できっこない。王様はすでにカンカンに怒っている。僕の言うことなんて耳も貸さないだろう。
でも、他の人が僕の手提げ袋から百円玉を見つけ出したら、一巻の終わりだ。僕は犯罪者としてつるし上げられ、クラス全員から無視される。
「まだ見つからないのかよ。おい、ちょっとこっち来い」
僕は王様に腕をつかまれ、強く引っ張られていた。
「俺たちで手分けして、クラス全員の持ち物を調べてやる。俺は前の列から、おまえは後ろの列からだ。グズグズしてないで早くやれよ」
王様には逆らえない。
王様の百円玉が僕の手提げ袋の中にあると言い出すタイミングは、もうなくなっていた。
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