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「しっかり調べろよ。体育袋の中も給食袋の中もだぞ」
廊下側の男子の席に行って、彼が差しだす荷物のすべてをあらためる。震える手で机の中身を確認していると、同情まじりの視線に気づいた。
なぜ、王様の命じるままに、こんなことをしなくてはいけないのだろう。馬鹿げている。従う必要も、怯える必要もないのに。
一人目の荷物を調べ終わって、隣の女子の机に移動する。王様の手足のように動く僕へと、軽蔑しきったまなざしが突き刺さる。好きでやってるわけじゃない。僕だってやりたくない。でも、女子に嫌われるよりも、王様につるし上げられるほうが恐ろしい。
三人目の机に取りかかる。このペースならば、王様が僕の手提げ袋を覗くことはない。いや、本当にそうだろうか。
信じていた家来に裏切られたと思ったら、王様は一体どんな形相でつかみかかってくるだろう。想像しただけで、胃が引き絞られるようだった。
「なんだよ、おい」
不意に、王様が声を荒げる。顔を上げて黒板の方を見ると、大柄な王様の隣に小さなレンが立っていた。レンは腕を伸ばし、手のひらを上に向けて、なにかを突きだしている。
僕は叫びだしそうになるのを、なんとかこらえた。
「おまえが俺の金を盗んだのか?」
レンは一瞬、顔を傾けてから、首を横に振った。
「ちがう。さがした」
「嘘つくな! 俺はわかってるんだ。おまえが百円玉を盗んだ犯人だろうが!」
クラス中が息をひそめて、レンと王様のやりとりを見守っている。
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