初恋

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初恋

 高校の卒業式の日、ずっと好きだった女の子と連絡先を交換した。  彼女は大人しくてあまり目立つタイプではなかったけど、友達と話している時の楽しそうな笑顔が僕には眩しく焼き付いて、二年生で同じクラスになって以降、気づいたら目で追うようになっていた。  僕らは普段あまり接点がなかった。彼女が僕の存在をどのくらい認識してくれていたのかわからない。名字くらいは知っているだろうけど、目が合うこともほとんどなければ、当然話をしたこともなかった。  修学旅行の時、彼女と彼女の友達が、たまたま近くにいた僕の友達に「写真撮ろうか」と声をかけてきて、側にいた僕も一緒に写った。その写真は、彼女の友達から僕の友達に共有されてきて、それを僕ももらった。彼女は飾り気のない自然な笑顔で、男女六人が写るその写真の中でも一際輝いて見えた。僕はというと、一番端で体を斜めに寄せて、間抜けな顔をしていた。  その写真を、スマホのギャラリーの、すぐに表示できるところに分類して、毎日毎日、彼女の笑顔を眺めてはニヤニヤして過ごした。  卒業したらもう会えなくなる。あの笑顔が僕の前から消えてしまう。そう考えると胸が締めつけられるように苦しくて、最後の日、声をかけずにいられなかった。  彼女は驚いていたけど、少し慌てた感じでスマホを取り出し、袖から覗いた小さい指をちまちまと動かして、僕の連絡先を登録した。そして自分の連絡先を送って、届いたのを確認すると、少し赤みを帯びた頬をぐっと上げてにっこり笑った。    それから何度かメールをやり取りして、二人で会うことになった。駅前のファストフード店でハンバーガーを食べて、それから自転車で連れ立って近くの公園に行った。園内の花壇には菜の花が真っ盛りで、鮮やかな黄色の海を割る小径(こみち)を二人で歩いた。菜の花は背が高く、小さな彼女はほとんど埋もれてしまいそうだった。  僕は彼女に想いを告げた。彼女は、連絡先を聞かれて、そうなのかなって思ってた、と言った。  つき合ってほしいと言ったら、彼女は言った。  私、とおくの大学に行くの。だから遠距離恋愛になっちゃう。  
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