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彼女の行き先は電車で三時間かかる地方都市だった。お互い学生の身には、金銭的にも遠かった。
引っ越すまでの三週間、僕たちは寸暇を惜しんで何度も二人で会った。心が燃え上がるように高揚し、恋という激しい感情と強大な力にみるみる飲み込まれて行ったのは僕だけではなかった。手をつないで、寄り添って、キスをして、ずっとこのままで居られたらいいのにと、彼女は何度も泣いた。
大丈夫、バイト代貯めてできるだけ会いに行くから。毎日メールもするし、淋しい時は電話する。離れても、僕の気持ちは変わらない。だから大丈夫。そう言葉にして彼女に伝えながら、僕自身も確信を持っていた。その気持ちに一点の偽りもなかった。
別れの日、彼女を見送った後、喪失感に茫然としながら、二人で最初に行った公園に、一人で行った。
菜の花は姿を消し、花壇には新しい花が整然と植わっていた。
今年は少し早かった桜が、無数の花びらを風に震わせザワザワと音を立てていた。
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