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空きコマの時間は部室を覗きに行って、誰もいない時には、一人で音源を聞きながら、英語のシャドーイングのように落語の練習をしていた。
どうにか話を覚えてなんとなく形になってきた初夏のある日、落ちまでやり終えたところで突然部室のドアが開いた。僕はぎょっとして固まった。パチパチと拍手しながら入って来たのは、いつも僕に所作を教えてくれる二年生の女の先輩だった。聞かれていたのが恥ずかしくて顔が熱くなり、目を逸らして唇を固く結んでいると、先輩は僕の肩を扇子でつつきながら、頑張ってるね~、とニヤニヤ笑った。
それから先輩と空きコマが被ったら二人で稽古をしたり、カフェで話したりするようになった。
先輩は彼女とは全く違うタイプの、芯があって堂々として、少し小憎たらしい感じの人だったけど、一緒に過ごす時間が増えるのと比例するように、僕の心は次第に惹かれていった。
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