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ピンポーン。
高すぎる位置にある呼び鈴を鳴らした。しばらく待つとドアが開いて、例の女の人が顔を出した。
女の人は面食らったように僕を見つめたが、すぐに疲れたような笑みを見せた。
「江藤さんの娘さんね?」
緊張の極致にいた僕は、思いのほか優しい声にびっくりして顔を上げた。女の人はじっと僕を見つめている。
声を聞きつけた父親が慌てたように奥から出てきた。
「…夏紀」
父親は愕然と僕を見おろした。我に返ったように忙しくみなりを整えはじめるさまが嫌らしくて、嫌悪感を覚える。僕はずり落ちるズボンを引っ張り上げながら父親を睨みあげた。
「この雨の中、パパを追って来たのね。こんな小さな子が……」
女の人は奥に下がると、タオルを持ってきた。滴のしたたるコンクリートの床にひざまずき、僕の濡れた顔や、髪を拭いてくれる。
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