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途中ですっぽ抜けたぶかぶかの靴を抱いたまま、僕は駅ビルのトイレに駆け込んだ。
変身を解くやいなや、ずぶ濡れの姿のまま公衆電話に入り、受話器を取った。
「はい、江藤です」
母親が出た。大人の女性の声に僕は微かに動揺する。
「あの、結花梨さんの同級生の益田ですけど……」
「――あら。結花梨にかわりますね」
「いえ、その――妹さんの、夏紀ちゃんはいますか?」
「えっ? 夏紀?」
母親の声は不審げな色を帯びる。それでも「ちょっと待ってね」と言ってくれたので、僕はほっと息を吐いた。
母親と入れ替わるように夏紀が電話口に出た。まるで待ち構えていたとしか思えない速さだった。
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