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僕はカーテンを閉めて二階の廊下に人気がないことを確認すると、猫に化けた。
窓からジャンプして、ブロック塀の上にすとんと降り立った。なんと身が軽いことか。猫は骨と骨のつながりが人より緩い気がする。
向かいの塀の上で野良猫がふーっと毛を逆立てた。彼は僕が縄張りを侵したから怒っているのではない。僕が猫のようでそうでない正体不明の存在であることに気づき、怯えているのだ。やはりけだものは敏感である。
僕は野良猫を無視してブロック塀をするすると渡って行った。
塀の切れ目で知らない家の庭に降り立ち、庭を突っ切ってフェンスの隙間から燐家の敷地に入る。その家の門の下からするりと抜け出て、路地を横切ってさらに進む。
途中で犬に吠えられたり幼児に追いかけられたりしながら、目的の家に着いた。きれいに剪定された生垣の向こうに二階建ての一軒家の上半分が見えている。
生垣を潜り抜けると芝生の敷かれた庭に出た。僕は沓脱石にちょこんと座り、ミャアミャアと鳴いた。
すぐに室内から足音が近づいてきて、掃き出し窓がからからと開けられた。
女の子が顔を覗かせ、嬉しげに笑う。
「猫ちゃん。また来てくれたの?」
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