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僕の心臓は跳ねた。
彼女の名は江藤結花梨。同じクラスの女子である。僕は彼女に憧れていた。まず顔がすごく可愛い。そして清楚で優しいのである。
僕だけでなく、男子生徒にとって彼女は高嶺の花だった。クラスで十把一絡げ扱いの僕などは、小学校も一緒だったのに一度も口をきいたことがない。僕程度のレベルの男では彼女と会話すら許されないような雰囲気があった。
そんな彼女がたいそうな猫好きだと盗み聞き、僕は猫に化けてこっそり結花梨の家に通うようになった。
そう。変身能力を邪な目的で使っているのである。でもそれはしょうがないことだ。なにしろ僕は健全な中学二年生の男子であるのだから。
結花梨は縁側に膝をつくと、「おいでおいで」と手を差し出した。
僕はごくりと唾を飲み込む。この姿なら彼女の手を舐めたって違和感はないだろう。だが、かろうじて残った理性が「それだけはやっちゃならん」と警鐘を鳴らしている。
衝動をぐっと堪えながら手の甲に額を擦り付けていると、ふいに抱き上げられた。
「今、お母さんいないから、お部屋で美味しいものあげるね」
まっすぐな黒髪がさらさらと僕のひげと交じり、心臓が激しく鳴った。
結花梨からは甘くいいにおいがした。多幸感が洪水のように押し寄せ、クラクラしてしまった。
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