秋雨と共に

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秋雨と共に

今年初めての秋風が吹いた。 日が落ちて涼しくなった夕方、物腰の柔らかいメガネのニュースキャスターが明日の天気を予報している。 どうやら明日は秋雨が降るらしい。 残暑も落ち着き肌寒くなってきていた。 予報通り朝から降り出した秋雨が小降りになったのを見計らって私は喫茶店へ向かった。 私は近所の喫茶店でコーヒーを飲みながら文庫本を読むことを趣味としていた。 「いらっしゃいませ」 傘をたたみながら入店すると聞き覚えの無い声が耳に入ってきた。顔を上げて見るとマスターの横に見知らぬ女性が立っていた。凛々しい顔立ちであるが目元は柔らかく優しそうに見えた。背が高くすらっとしており、長い黒髪は後ろでまとめられていた。汚れのない黒の真新しいエプロンがよく似合っていた。 私の不思議そうな顔を見たマスターが「ヤマウチさん、新人のバイトの子ですよ」と言った。マスターが彼女に私の事を軽く説明し、それに続いて私は「よろしくお願いします」と言った。小さくお辞儀をしながら彼女も「よろしくお願いします」と言った。これがツキカさんとの初対面だった。     
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