秋雨と共に

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私のすぐ後にお客さんが入ってきたので、彼女は「いらっしゃいませー」と言いながらそちらの方へ駆けていった。 席につきながら私は「綺麗な子ですね」とマスターに言った。 「ええ、そうでしょう。ツキカさんというんですよ。彼女は真面目で、とても丁寧に仕事してくれるんですよ。それに彼女には不思議と、人を惹きつける雰囲気が漂っているんですよ」 少し振り向いてもう一度彼女を見てみたが、確かにマスターの言う通り人が良さそうな印象を受けた。 はじめは特に「綺麗」「いい人」という事以外特に彼女には何の感情も抱いていなかったのだが、喫茶店で彼女と会話を重ねていくうちに段々と彼女に惹かれるようになった。 マスターが言っていた彼女の「人を惹きつける雰囲気」に私は魅了されていたのである。いつのまにか、喫茶店に行く目的もコーヒーから彼女と会話するためへと変わっていった。 彼女は不定期の出勤だったので会える回数は少なかった。しかし、返ってそれが出会えることの大切さを増して感じさせていた。 寒さが深まってきた秋の雨の日だった。     
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