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誰かに謝られたような気がした。
そんな思いと共に、蓮水星來は目を覚ました。ちょうど五限目の授業の終了時刻であったのか、軽やかなチャイムの音が鳴り響く。
いつの間にかうたた寝をしていたらしい。微睡んでいた意識は少しずつ覚醒していき、ぼやけた視界も安定する。ふと机上のノートを見れば、ミミズが這ったかのような線が残されていた。
汗ばんでいた額を拭いながら、星來はホッと息を吐いた。
――また、あの夢だった。
狐の面を被った、学生服姿の少年が出てくる夢。顔も見えなければ、声も聞こえない。ただ、じっと自分を見つめている。時折、どこかへと誘うように手招いたり、こちらの様子を確認してきたりするのだ。
夢に見る場所は、きまって幼少期に入院していた病院だった。そこを舞台に、過去の記憶を辿る夢。紛れもなく自身が経験した記憶なのだが、そこに居なかったはずの少年が紛れ込んでいるのだ。あの病院でよく共に過ごしていた友人の少女ではない。あの場に居なかったはずの存在が、夢では欠かさず現れるのだ。
これは、一体何を意味しているのだろうか。今まで、こうして連日同じような夢を見たことはない。単なる夢ではあるが、底の見えない穴を覗き込んでいるかのような不安感に苛まれた。
――その時、頭に衝撃。
ぼんやりと思案していた星來は勢いで机と衝突しそうになる。何か軽い物で頭を叩かれたと認識したのは、そのタイミングだった。
「おっはよ、せいちゃん」
「……律夜」
顔をあげれば、にかりと歯を見せて笑う少年がいた。鉛丹色の髪を一つに束ねたその少年は、一年生の時からのクラスメイトであり、唯一無二の親友ともいえる津雲律夜だった。
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