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「不眠症?」
「いや、そんなんじゃないよ。なんか、夢を見るんだよね」
不思議そうな顔をした律夜に言えば、「夢?どんな?」と微かに好奇心を覗かせた黄緑の目と視線がかち合った。
「昔の夢。俺が入院してた頃だから、たぶん小学生くらいの時の夢だと思う」
「へぇ、過去を辿る感じか」
幼き日の病院生活を思い返す。あの頃の記憶は、当時親友で大切な人であった『彼女』以外は少しずつ薄れ始めているが、それでもまだはっきりと覚えている。夢で何度も繰り返しているから尚更だ。
正直言ってあまり思い出したくはないが、入院生活も今となっては思い出の一つだ。親友と過ごした日々は当時の自分にとっては幸せなものだったし、その部分だけを追体験するならば良かったのに。
「だけど、知らない人も出てくるんだ。夢だから何でもありなんだろうけど、なんとなく気になって……」
「なるほどね。……それ、誰かに相談とかしたか?」
「いや。相談するほどのことでもないかなぁって。学校以外でこんな話するような人も居ないし」
「そっか。せいちゃん、一人暮らしだもんな。親とも連絡取ってないんだっけ?」
「うん。父さんは仕事で忙しいだろうし……母さんは、連絡先も知らないから」
星來は再び遠くの空を見つめながら憂いげに言った。
両親は、自分が病院生活をしている最中に離婚した。原因は何となく自分にあると、幼い心でも理解していた。星來はそれが心苦しく、今でもなお偶に気にかけてくれる優しい父の許を離れ、一人暮らしをしている。
「兄弟とかも居ないんだっけ?」
律夜の問いに、星來はこくりと首肯した。
「俺、『一人っ子』だからさ」
「そうだよなぁ。そうなると尚更話す人いないよな」
律夜は寂しそうな顔で頷く。律夜も兄弟がいないために、その気持ちはよく分かる。
「話くらいならオレも聞くから、いつでも相談しなよ?」
律夜はそう言ってやんわりと微笑んだ。彼の優しさが春の日差しのように温かく感じ、星來は小さな声で「ありがと」と礼を言った。
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