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放課を告げるチャイムが、高らかに校舎中に響き渡る。ショートホームルームを終え、既に支度を終えていた生徒たちは次々に教室を飛び出していった。部活動に行く者、委員会へ向かう者、帰宅する者、それぞれが別の場所へと向かっていく。小学生かと思わずツッコミを入れたくなるほど、彼らの様子は子どもっぽくて忙しなかった。
「はぁ~~やっと一日終わった」
学生鞄を床に放り、星來の机に頬杖をついて律夜がやれやれと長い息を吐く。
「律夜、そこに居ると頭に荷物乗せるよ?」と星來が教科書を片手にしれっと呟く。その教科書は既に、律夜の頭に乗る準備ができているようだった。
「せいちゃん冷たい!」
「支度の邪魔する律夜が悪い」
「うっ、塩対応……」
鞄に教科書をしまいながら、星來がどこか冷めた目で見つめる。あしらわれた律夜は、一つに結んだ髪をぴょこぴょこと揺らしながら泣き真似をするが、星來は特に気にする様子もなく呆れた顔をするだけだった。
相手にして貰えないと理解したのか、律夜は切り替えるように嘆息して泣き真似をやめた。
「なぁせいちゃん、この後暇だったりしない?」
椅子をグラグラと前後に揺らしながら律夜が問う。
「暇だよ。委員会も特にないし。律夜こそ部活ないの?」
「今日は休み。先生が風邪引いたんだとよ」
「へぇ、珍しいこともあるもんだね」
星來は目を丸くした。
律夜の所属するバスケットボール部の顧問は、風邪など知らないような快活な男だ。一年中薄着で過ごし、白い歯を見せて豪快に笑ういわば典型的な体育教師だ。部活動中に体育館の前を通れば、顧問の怒鳴り声が聞こえてくることが有名だが、厳しくも生徒想いの優しい教師だと評判も良い。この時期は風邪が流行る時期でもないのに、珍しいこともあるものだ。
「そうだな、せいちゃんと違ってな」
律夜が納得したように頷いた。その言葉に、星來はムッと口を尖らせた。
「だから病弱だったのは昔の話だって……」
「嘘つけ!このクラスで一番出席率悪いのせいちゃんだし、体育の授業の後なんかほぼ死んでるじゃん!」
「仕方ないだろ体力ないんだから!」
指を指しながらそう言う律夜の頭を、星來はノートで軽く叩く。スパンッと気持ちのいい音が鳴った。そうすれば、ぐえっ、と蛙が潰れたような声が返ってきた。
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