Daydream1:過去からの呼び声

9/22
前へ
/323ページ
次へ
「じゃあ、早速行くか!」  律夜は中身があまり入っていなさそうな薄っぺらい鞄を背負う。ワクワクした様子の律夜は、今にも駆け出しそうだ。 「自分だけちゃっかり支度終えてるし……」 「私も終わってるから」 「え、待って俺だけ⁉」 「早くしないと置いてくぞせいちゃん!」  焦った様子の星來を横目に、律夜は教室を飛び出した。それに続き、夕咲ものんびりと廊下へと出ていく。  取り残された星來は、テキパキと帰り支度を進める。そして、慌てて二人の後を追って夕陽が差し込む廊下を駆け抜けた。 *  気だるげな烏が鳴き声をあげた。  六月も中旬に差し掛かり、午後五時を迎えようとしている現在でも外は昼間のように明るい。草むらから飛び出してくる軽やかな虫の鳴き声が、妙に心地よかった。 「なんか一緒に帰るの久々な気がするね」と、星來が二人に向けて小さく笑んだ。 「確かにそうね。ここ最近はみんな忙しかったし」 「オレは夏のインターハイまで部活づくしだからなぁ」  律夜がポケットに手を突っ込みながら答える。 「今年もレギュラー?」 「当たり前!」 「じゃあ、応援行くね」 「マジ!?せいちゃん来るならより一層頑張るわ!」 「……単純ね」  目に見えて分かるほど輝かしい表情をした律夜に、夕咲は表情一つ変えずに呆れたような声を零した。  自分が応援に行くだけで喜ばれるのは、なんだか不思議な気分だ。星來はそう思いながら、舞い上がる律夜に対してただ苦笑するしかなかった。
/323ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加