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「じゃあ、早速行くか!」
律夜は中身があまり入っていなさそうな薄っぺらい鞄を背負う。ワクワクした様子の律夜は、今にも駆け出しそうだ。
「自分だけちゃっかり支度終えてるし……」
「私も終わってるから」
「え、待って俺だけ⁉」
「早くしないと置いてくぞせいちゃん!」
焦った様子の星來を横目に、律夜は教室を飛び出した。それに続き、夕咲ものんびりと廊下へと出ていく。
取り残された星來は、テキパキと帰り支度を進める。そして、慌てて二人の後を追って夕陽が差し込む廊下を駆け抜けた。
*
気だるげな烏が鳴き声をあげた。
六月も中旬に差し掛かり、午後五時を迎えようとしている現在でも外は昼間のように明るい。草むらから飛び出してくる軽やかな虫の鳴き声が、妙に心地よかった。
「なんか一緒に帰るの久々な気がするね」と、星來が二人に向けて小さく笑んだ。
「確かにそうね。ここ最近はみんな忙しかったし」
「オレは夏のインターハイまで部活づくしだからなぁ」
律夜がポケットに手を突っ込みながら答える。
「今年もレギュラー?」
「当たり前!」
「じゃあ、応援行くね」
「マジ!?せいちゃん来るならより一層頑張るわ!」
「……単純ね」
目に見えて分かるほど輝かしい表情をした律夜に、夕咲は表情一つ変えずに呆れたような声を零した。
自分が応援に行くだけで喜ばれるのは、なんだか不思議な気分だ。星來はそう思いながら、舞い上がる律夜に対してただ苦笑するしかなかった。
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