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「そういや話は変わるけどさ、最近学校でよく変なこと起こるよなぁ」
自転車を押しながら、律夜がふと思い出したかのように言う。その言葉で、星來は昼間の出来事を思い出した。
「あ、今日もいきなりガラスが割れたとかあったよね」
「先週も教室に閉じ込められたとか、あるはずのない教室に迷い込んだとかもあったわね」
夕咲も記憶を辿りながら目を細めた。
星來たちの通う学校では、ここ一ヵ月ほど怪奇現象と呼べる事象がいくつか起きていた。休み時間の生徒たちの会話の話題といえば、その怪奇現象であることがほとんどである。どこから生まれたかも分からない噂が蔓延していた。その噂のどれもが、生徒が実際に体験したことだったが、いまいち信憑性に欠けるものばかりであった。
「でも、どれも噂好きの奴等の話だろ?信憑性なくない?」
律夜が少し退屈そうに言った。
「俺も最初はそう思ったよ。でも、俺も今日見たし……」
ぼそりと星來がそう零した。
「え!?せいちゃん大丈夫だった⁉」
「目撃しただけだから大丈夫だよ」
「ほんと⁉怪我とかしてない⁉」
「だからしてないってば、落ち着いて」
血相を変えた様子の律夜を落ち着かせるように言えば、同じく話を聞いていた夕咲がその話に興味を持ったように目の色を変えた。
「蓮水くんは何を見たの?」
そう尋ねられ、星來が答える。
「えっと……水道が勝手に動くところ?」
「なにそれ。せいちゃん寝ぼけてる?」
「寝ぼけてない!」
先程の心配するような素振りはどこへ行ったんだ。
星來は内心そう思いながら声を張り上げた。
「昼休みに購買行った帰りなんだけど、目の前でいきなり水道の蛇口から勢いよく水が出てきて……近くに女子が一人いたからあの子がやったのかなって思ったけど、俺と同じように驚いてたし、あんな数の蛇口を一人で一気に捻るなんて無理だろうから」
星來は昼休みの出来事を振り返る。
奇妙な出来事であったため、あの光景は妙に鮮明に焼き付いていた。教室へ向かう途中の廊下で、突然蛇口から大量の水が溢れだした。それはもう、跳ね返った飛沫で廊下に大きな水溜まりが出来るほどに。近くに女子生徒が一人いたが、自分と同じように怯えたような顔で固まっていた。だからきっと、あの生徒は犯人ではない。
慌てて蛇口を閉めれば呆気なく水は止まったから、故障とも考えにくいだろう。
そうなると、最近の噂のせいか、存在しない者の仕業とつい考えてしまうのだった。
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