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「マジか……何で最近そんなのばっかなんだよ……」
怖気づいた顔つきで律夜が呟いた。それを嘲笑するかの如く、烏が冷えた鳴き声を落としていった。
「何か大きなことが起こったりするのかな」と星來が不安げな声音で言う。
「ありえそう……。なぁ、夕咲的にはどう思う?」
律夜が尋ねれば、夕咲は顎に手を当てて思案した。
「そうね……今日あった硝子の件は私も事件後に通りかかったんだけど、微かに黒紫が見えたわ。いい物とは言えないわね」
「夕咲も見たのか……」
「えぇ、偶然ね」
「良い物とは言えないって……やっぱり、何か霊的な感じなのかな?」
「その可能性も十分にあるわね」
平然と答える夕咲に、星來が引きつった顔をする。
誰かが流したくだらない噂とばかり思っていた。自分たちとは少々遠く離れたところにある非日常のようなものと、心のどこかで見て見ぬふりをしていた部分もある。
だが、その不透明な噂が今日だけで自分たちと急激に距離を縮めているような気がする。もう、背後に迫っているのではないかと思うほどに。
信じていないし信じたくもない怪奇現象が、段々と身近になりつつあることに、ずるずると這い上がるような恐怖を覚えた。
「……百鬼って霊感あるの?」と星來がふと問いかけた。
「どうかしら。この力を霊感と呼ぶのならあるんじゃない?」
夕咲は微妙な顔で答えた。霊感とは直接結びつかないかもしれないが、怪奇現象が起きた場所から色で何かを感じ取るという点では、霊を感知できていると言っても過言ではない。常人にはない特殊な力のようなものだから、一種の霊感と称しても間違いはないだろう。
「霊感なんてない方がいいよなぁ……」
「わかる。俺もそういうの苦手だし」
「どうにも心霊系は苦手なんだよな」
「同じく……」
夕咲の返答を聞いて、二人は少し顔を青くする。昔からあまり得意ではない心霊の類の話。それが身近なものとなっている今、星來も律夜も考えるだけで震え上がった。
「今度三人でお化け屋敷にでも行く?」
「行かねぇ!」
「行かない!」
悪戯っ子のように夕咲が口にすると、律夜と星來が同時に叫んだ。今まさに幽霊でも見たかのような二人の青ざめた顔に、夕咲は思わず笑いだす。滅多に見ることのない夕咲の笑顔に、二人は一度顔を見合わせて目を丸くした。
そして、何の変哲もない青春の欠片を感じ取って互いに笑い合った。
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