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「ん?あれ、なんだろ……?」
その時、不意に律夜が視線を坂の下に向けた。
「え、なに?」と、星來がその視線の先を辿る。
そこにあったのは、混凝土で形成されたトンネルだった。苔や蔦がそれを装飾し、古めかしい雰囲気を演出している。夕方の世界にぼうっと浮かび上がるそれは、まだ辺りは明るいというのに、随分と濃い影を帯びていた。まるで異世界の入り口にも見えるそれは、毎日通っている帰り道だというのに初めて見るような気がした。
「あのトンネルがどうかした?」と星來が首を傾げた。
「いや、なんかトンネルの方で光ったような気がして」
律夜が目を細めてトンネルを凝視する。先程この目に捉えた光は、見つけることができなかった。
「津雲くんのことだしきっと気のせいよ。津雲くんのことだし」
「夕咲はもうちょいオレのこと優しく扱って!」
「……でも、あんな所にトンネルなんてあったかしら?」
「さぁ?あんまり意識したことがないから……」
夕咲も星來もトンネルに違和感を覚え、思わず足を止めてそれを見つめる。
小さなトンネルだ。
トンネルというより、高架下と言った方がしっくりくるだろう。高架下にしては暗く長い気もするが。車はもちろん通行不可のようで、小さな抜け道のようであった。
「ちょっと見てくるわ!」
「あ、ちょっと律夜……!」
自転車をその場にとめて、律夜は駆け出した。雑草に彩られた階段を跳ねるように下りていく。傾斜の緩い坂道の下にあるそのトンネルまでは少し距離があり、近づいてみなければトンネルの詳細を調べることはできない。そう思い立った律夜は、足早にトンネルへと向かうことにした。
「結構怖がりなのに、ああいうのは積極的に見に行くのね」
好奇心に駆られて坂の下へと向かった律夜を見て、夕咲は呆れたように呟いた。
「ほんとだよ……何かあったらどうするつもりなんだか」
「あら、蓮水くん怖いの?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
星來は苦い顔をした。
確かに怖い。というより、微かに嫌な気配がしたのだ。自分には霊感などないと思うが、行かない方がいいと直感的に感じた。自分の中の何かが、あれは危険だと告げているような気がする。
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