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「ゆづっちせんぱーい!」
水瀬刹奈の高らかな声が響き渡ったのは、烏も帰巣する日没の頃だった。外に立ち込める夕闇をも吹き飛ばしそうな勢いで、刹奈は扉を開いて駆け込んできた。
「もうちょっと静かに入ってきてくれる?」と思わず落としてしまったペンを拾いながら、結月が注意する。
「すみません! でも伝えなきゃいけないことがあったので!」
刹奈は紙を片手にそう答え、結月の前に立った。その顔はどこか得意げである。隠しきれない笑みが唇に滲み出ていた。
「へぇ、水瀬がそう言うなんて珍しいっすねぇ」
結月の隣の椅子に座って読書をしていた蒼斗が顔を上げた。
「だね。明日は雪が降るかも。ねぇ、彩羽?」
「え? そ、そうかもしれませんね……」
突然、結月に話を振られた彩羽が戸惑いがちに苦笑する。その正面に座るあずまがそれを聞いて、桃色の瞳を細めてくすくすと可笑しそうに笑った。
「雪じゃなくて槍くらい降りそうじゃーん」
「皆して水瀬を何だと思ってるんですか!」
先輩四人の言葉に刹奈は猫目をキッと吊り上げた。よく通る怒鳴り声は、閉じた窓を微かに震わせる。
ドカドカと苛立った足音を立てながら、刹奈は怒りの気持ちを込めて乱暴に自分の席に座った。彼女が被るキャスケットが僅かにズレ落ち、覗く浅緋色の髪が揺れる。
「それで、何かあったの?」
本題に入ろうと結月が問う。
刹奈は待ってましたと言わんばかりに瞳に輝きを散らした。
「聞いて驚いてください! なんと! ガイストの情報をゲットしたんですよ!」
「ガイストの?」
「そうです! たぶん間違いないです!」
自信満々な様子で告げながら、刹奈は持っていた資料を机の上に置いた。結月たちはその資料を覗き込み、書かれていた文字を読みこむ。
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