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会いたい
翌日。会社に出勤した尚之は、いつものごとく、喫煙室へ向かった。そこで自販機で買ったコーヒーを手に一服していた。
「よう、おはよう。若林」
扉を開けて入ってきたのは、塩崎だった。
「お、おう。おはよう」
尚之はたどたどしく答えると、塩崎はその顔を見て、
「若林、なんか良いことでもあったのか?」
言われると、ゴホゴホと咽る尚之。
「べ、別に。いつも通りだろ」
「いや、なんか心、ここに非ず、って感じだったからな」
言って、くすくす笑う塩崎。尚之は二人しかこの空間にいなかったし、こんなことを話せるのも塩崎しかいないと思い、
「……なあ、本当にあのサイト、出会えるんだな」
言うと、塩崎は目を丸くして、
「なんだ、お前、あのサイト早速使ったのか。だろ? 出会えるだろ?」
目を輝かせて言う塩崎に、尚之は目線をすぐ逸らして、
「あ、ああ。びっくりしたけど、悪くないな……」
「はは、お前もやっぱり男だな。どんな子だったんだよ」
言われると、うーんと尚之は考えて、
「美人だった。若かったし。あんな子があんなことしてるなんて驚いた」
「そっか、いいな。俺ももっといい女抱きたいなー」
ケラケラ笑いながらいる塩崎を横目に、
「別に、色んな女じゃなくても良いんじゃないか? いちいちまた探すのも面倒だし……」
そう言うと、塩崎はからかうように、
「お前、もしかして、その子に恋でもしたのか? ん?」
顔を近づけて尚之の顔を窺おうとする塩崎に尚之は眉を潜め、
「べ、別に! じゃ、俺先に行くから」
言って、尚之はその場を離れた。
実際尚之は、リナのことが気になっていた。どう形容するのが正解かわからないが、恋というよりは、もう一度、あの肌に触れたいというのが本心だった。
毎日、流れるように続く日々を変えてくれるのであれば、ああいう非日常的なことだと思った。
でも、今月は小遣いがもう底をつく。どうしたものかと考えていたが、貯金を少し崩すくらいいいか、と尚之は安直に考えた。
まさか自分が女性にこの歳になって興味が湧くとは思っていなかった。
同じ女性のいるクラブに行っても、どうにかしたいとそこまで思ったことはなかったが、身体を合わせると、情に似たものが少しでも湧くのは否めなかった。
尚之は交際歴も少ないし、こういうスリリングな関係にはときめくものがあった。
恵には昨日、なんとか違和感を覚えさせずにいれたと思う。
また、リナに連絡したい。ただ、食事をするだけでも良い。とにかく、もう一度会いたいと思った。
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