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第四章 咎める女
「遅かったのね。」
アキコのいるマンションに戻ると、珍しく帰りの遅さを咎められた。
「仕事だよ。締め日なんだ。
いつも気にしたことないだろ。」
滝川はアキコの目を見ずに言った。
朝食べてから、何も口にしていない。
空腹かどうかも分からなくなっていた。
ここ最近生活のリズムと感覚がおかしいのを
彼は自覚していた。
「今日は焼き鳥よ。」
炭火の香ばしい匂いが、鼻腔をくすぐる。
テーブルの上に山のように盛られた焼き鳥の中で
レバーのようなものを一本、彼はつまみ上げた。
それを口にすると、レバーとは違う歯ごたえがある。
鉄分の多い味がした。
なんだろう。
「これは何?」
何気なくアキコに尋ねると、彼女はにっこりと笑った。
「ハツよ。」
“よりによって心臓かよ。”
彼は急激にせり上げてくる吐き気に勝てず、
トイレへと駆け込んだ。
内臓ごと吐き出したいくらい、気分が悪かった。
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