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夜の盛り場は、光と影、表と裏が交錯する所。
千鳥足の酔っ払いが陽気に浮かれ歩き、けばけばしく身を飾った女達が彼らを差し招く。……一体、何をしているのだろう?
酒場や食べもの店が軒を連ね、人が溢れ、表通りは賑々しいが、一歩路地を入れば、ぼろをまとった貧乏人が、地べたに座り込んで何やら煮炊きをしていた。
人の目を避けるように少年は、さらに暗い裏通りへと入り込み、路地から路地へと逃げ惑う。
空腹を刺激する食べもののにおいと、吐き気をもよおすような、すえたにおいが入り交じる、そんな裏路地の奥で、とうとう少年はうずくまった。
とにかく、腹が減っていた。昨日から、何も食べていないのだ。
今ならきっと、ディナーも全て、残さず平らげられるのに。
噂には聞いていた本物のネズミが、ちょろちょろと目の前を駆け抜けていったが、追いかけてみる気力も無い。
だって、追われているのは自分の方だ。
どうして、こんなことになったのだろう。
必死に逃げ出してはみたものの、魔の手を逃れたことにはならなかった。
純白だった被毛は薄汚れ、見る影も無い。
着ていた物も、身ぐるみ剥がれた。
それでも、こんな姿がかえって人目を引かないほどに、この貧民窟の住人達のなりは、みすぼらしいのだ。
たった今も、裸足の小さな女の子と、破れたつんつるてんのズボンをはいた、自分と同じくらいの年頃に見える男の子が手をつなぎ、親でも探しているのか、きょろきょろしながら通り過ぎていった。
出て行って友達になれたら、どんなにか良いだろう……
一瞬、そんな考えが頭をよぎったが、今はそれどころではなかった。
きょうだいも、友達もいないから、隠れんぼも、鬼ごっこも、したことは無い。
にも関わらず少年は今、探され、追われているのだった。
探すつもりが、探されている。
(ママ……助けて、ママ……!)
「いたぞ!」
はっと顔を上げると、目の前に、恐ろしい顔をした大きな男が立っていて、にやりと笑った。
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