クーケットの朝

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クーケットの朝

 夜明けと共に、セントラルパークの鐘が街中に響き渡り、一日の始まりを告げる。  ミーシャは、程良く冷めた紅茶をゆっくりと口に運びながら、二階の窓からまだ明け切ってはいない通りを見下ろした。  朝靄の中、次々に商店が店を開け始め、やがて威勢の良い呼び声が響き渡り、街が目覚めていく。  この、活気溢れる下町の通りを眺めながら、のんびりと過ごす朝の時間帯が、ミーシャは好きだった。  アクムナスは、猫族(ケットシー)犬族(クーシー)とが合議によって治める島国。  かつては諍いをしていた歴史もあるとは聞くが、今ではそんなことは無い。  地方の小さな町や村の中には、犬族だけ、猫族だけという所もあるが、この首都クーケットでは、犬族も猫族も入り乱れ、友好かつ協調をモットーに、各々が得意な分野を生業として、手を取り合って暮らしている。  窓の下には今日も、新鮮な魚を行商する三毛のおばさんや、新聞配達をするテリヤの少年、それから、美味しそうな匂いをぷんぷんさせて、様々な食べもの屋台も次から次へとやってくる。  ダックスの若者が、腸詰めに衣を付けて揚げたものを売っている。  ミーシャの大好物、白身魚のフライをパンに挟んだものの屋台を引いた、サバトラのおじさんもやって来た。  呼び止めて、金を入れた小籠を下ろせば、二階に居ながらにして買い物をすることが出来るのであるが、ミーシャはアーモンド型をしたエメラルドの瞳をすがめ、小さくため息をついて窓から首を引っ込めた。
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