<3章>

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<3章>

もぞもぞと触られている、 多分痴漢だろう。 40にもなって、痴漢に遭うのかよ!? 内心ため息をつく。 気持ち悪さに身をよじるが、逃げ場が無かった。 ふと思いつき、鞄の中からなんとか読みかけの単行本を出す。 バスが揺れて、一瞬隙間が開いたところに 本でガードすると、その途端突き飛ばされた。 「痛っ!」 こけそうになって、つり革に掴まったつもりが 例の彼だった。 この人も遅れたの?と思うと ちょっと嬉しかったけど 今はそんな場合ではない。 「ブスのクセに生意気なんだよ。」 耳元に飛び込んできた悪意のある声。 振り返る勇気がなくてうつむく。 落とした本を拾いたいのに拾えずにいると、さらに声が続いた。 「恋愛小説かよ。欲求不満じゃねえの?」 私の落とした本は、恋愛小説だった。 年下の後輩に見初められ、 一方的に好かれるアラフォーOLの話だった。 いい年して夢みたいな事を考えていると 思われたのだろうか。 なんだか情けなくなって、涙が出てきた。
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