PROLOGUE:01 SIDE / Eugene

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PROLOGUE:01 SIDE / Eugene

 ある夜、忍び込んだ病院で音色を聴いた。メンデルスゾーンの“Lieder ohne Worte”。広間のピアノを弾く、包帯の女性を見掛け、思わず翼廊の柱の影に隠れ、姿を盗み見た。  たどたどしく、遠慮がちに、時に激しく。手探りで指先が白と黒の鍵盤を叩いている。地縛霊が暴れるようで弔う音色だと感じた。いつだって音楽は演奏者の心を表すものだ。  だからか、すぐに彼は彼女だと分かった。独り電子ピアノの前に座っている後ろ姿で。彼女は生きている間、――目が見えた頃は、きっと上手にピアノだって弾けたのだろう。彼は沈黙し、想像する、生前の彼女の姿を。
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