E:本気で悩んでいる。放っておいて?

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E:本気で悩んでいる。放っておいて?

「俺は許されたかった。何よりも、彼女に」  草臥(くたび)れた白衣に、染み付いた煙草の匂い。武骨な指には金に光る鋳型(いがた)の石のない指貫(ゆびぬき)。手持ち無沙汰にレシートで折る白い座り鶴。喫茶店の淡墨をかけたように曇る窓硝子を、ぼんやり見つめ、茶器で紅茶を(すす)る薄い唇。開かれる時、淡く溢れた吐息は水気を含む。 「なあ、こんな話……聞いて、楽しいか?」  金茶の短い髪を無造作に後ろへ撫でつけ、落ち着きのない姿は神経質な印象も与える。ダークグリーンの瞳は悩ましげに伏せられ、眼鏡の奥で物静かにも意志を湛えているが、友人二人の顔色を気にした風でもなかった。Eugene(ユージン)は大雑把。人や物や何に対しても。   「そんな哀しい恋の始まりがあるかよ……」
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