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──もう、ダメだ。俺にもう、可能性はない。
世間はゴールデンウイークだというのに、俺の心には一ミリも浮かれた気持ちは存在しなかった。
余計なことを考えなくていいように、可能な限りバイトをして過ごしたが、バイトが終わるとつい考えてしまうのは優理花のことだ。
不良と呼ばれていた俺は、やっぱり何をやってもダメなのだろうか。
誰もいないリビングで夕食をとったあと、動く気になれなかった俺は、テーブルに顔を乗っけてぼんやりとそんなことを考えていた。
そのとき、「たっだいま~」と俺の心とは対照的な異様に浮かれた兄貴の声が玄関から聞こえた。
俺の髪を練習台にして金髪にしやがった張本人だ。
まぁそのおかげで俺は、この世で一番愛しい優理花という存在を知ることができたのだが。
やべ、早く自分の部屋に籠ろう。
こんなローテンションのときに、明らかハイテンションの兄貴につかまるとか、面倒くさいこと極まりない。
即座に腰を上げたが、それより早く、兄貴は俺のいたリビングに入ってきた。
今日は美容師の研修があるとか言ってたからだろう、兄貴のチャラい雰囲気に似合わずスーツを着ている。
「おお、弘道、良いところに!」
「俺はちっとも良くねぇよ」
「そう冷たいこと言うなって! いいこと、教えてやろうか」
「別に知りたくねぇよ」
「そう遠慮するな。俺、彼女できたんだ」
俺の話なんてほとんど聞いてない兄貴は、こっちの気も知らずに楽しそうにそう告げた。
「そりゃ良かったな」
「おいおい、テンション低いなぁ。俺の奇跡の逆転劇、聞きたくないのか?」
「何だよ、それ。そんなの聞きたくねぇよ」
頭が痛くなってきた。
何で恋に悩んでる時に、人のノロケ話を聞かなきゃなんねーんだよ。
「つまんねぇやつだなぁ。ま、おまえも頑張れ、少年」
「まじうざい」
「そんなおまえのために、これやるよ」
「は?」
「元気のない我が弟に兄からプレゼントしてやるよ」
「はいはい。ありがと。俺、寝るわ」
この場を脱け出すなら今だと思った俺は、兄貴に渡された本を片手に席を立った。
ったく、自分の恋が成就したからって、いい気になりやがって。
自分の部屋に入るなり、俺はその本をベッドの上に放り投げた。
照明をつけたことで、初めて俺はその本の表紙を見やる。
『意中の彼女を落とす方法』
そんな風に書かれた本のタイトルを見て、これを読んで意中の女を落とせるなら、世の中みんなハッピーエンドだと思わず心のなかで悪態をつく。
まぁ紳士になれば優理花に振り向いてもらえると安易に考えた俺が言っても、全く説得力はないが。
けれど中身が気にならないことは、ない。
俺以外誰もいないことはわかりきっているのに、俺は周囲を確認してその本を手に取る。
パラパラとページを確認し始めた俺は、自分が思っていた以上に熱心にその本を読み始めた。
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