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100%の愛をきみに
「はぁ、何で俺が中庭の掃除なんてしないといけねぇんだよ」
この春高校二年生になったばかりの俺、多田 弘道は、先程生徒指導の教師に押し付けられた箒を片手にその場にしゃがみこんだ。
事の発端は、俺の金に染められた髪だ。
美容師になったばかりの兄貴の練習台になった結果、元々ギリ校則をすり抜けられるダークブラウンに染めていた俺の髪は見事に金髪にされた。
元に戻すのが面倒くさくてそのままでいたけれど、やはりダメだったか。
俺たちの学校の中庭は、その中央に大きな桜の木が一本たっている。
入学式の頃には満開に花を咲かせるのは見物だが、良いところといえばそのくらいしかない。
四月も半ばになれば、次々に花びらを散らせるこいつのせいで、中庭は薄汚れたピンクで覆われてしまう。
あー、怠い。適当に校舎の掃除機取ってきて、この際全部吸ってやるか。
そんな横暴なことを考えて校舎に入ったとき、俺は廊下を歩いていた誰かにぶつかった。
「……ちっ。気をつけ……」
「すみませんでした」
思わず舌打ちをしてしまったときに耳に届いたのは、凛とした高い声だった。
気をつけろよな、と続けるはずだった言葉が情けなく尻すぼみのように消えていったのは、目の前の女子に思わず目を奪われてしまったからだ。
……すげぇ可愛い。
凛とした声に似合う、形の整った大きな瞳。
筋の通った鼻にぽってりした唇。
色白の肌に自然な頬の赤み。
自然な黒髪は、彼女の肩で緩くカールをしている。
「おい……っ」
俺に軽く頭を下げて通り過ぎる彼女を、俺は思わず呼び止めていた。
「何でしょう?」
彼女の大きな瞳が怪訝そうに俺を見る。
「好きです……!」
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