ルーレットロッジ

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逃げる者、目撃する

時刻は、午後九時過ぎ。男は、ある罪を犯したとされ、警察から追われていた。 ザクッ、ザクッ、ハァハァ…… 息を切らせて必死な様子で、雪山を登るという危険な賭けに出てまで逃げている。 少しブリザードになりつつあるこの山道。足取りが重い中でほのかに見える、ロッジの明かり。 「(寒い……でも、中の人間がニュースを見ていなければいい。 私の正体に気づかなければ、それでいい。)」 一縷の願いを込めながら、ゆっくりと歩きを進める。すると、 ガンッ、トサッ……とロッジに近づいた時に妙な音が聞こえた。 向こうは気付かないようだったが、こちらにはその一部始終が瞼に焼付いた。 中から聞こえる笑い声とは正反対に、静寂とも思えるような凶行。 一人が雪の中に突っ伏して、もう一人の人物が止めを刺すのが見えた。 ガン、ガンッ、グシャッ。惨劇の最後の一撃は、十分な程に振り上げて放っていた。 「まさか、私が裏切ることまでは考えなかったでしょ?」 微かに聞こえた声は、女。反応を示すことが無くなったもう一人へ、手向けの言葉をそう呟いた。 男は、とっさに闇夜に紛れるように物影へ屈んでいた。 「(ああ、なんということだ。 殺人事件の現場に、出くわしてしまった。)」 逃亡しているのにも関わらず、運の悪いことに殺人事件を目撃するのはあまりいいとは言えない。 幸い、男の方へは気付かずに裏口から入る女。 だが、屈んでしまったことにより、その顔を確認することは出来なかった。 その後、ゆっくりと遺体に近づき、覗き込むように被害者の様子を確認した。 「(やはり、死んでいるようだ……年の頃は、四十過ぎと言ったところか……)」 正直、あまりまじまじと見たくも無いほど、頭部が陥没してうつぶせに倒れた死体。 ロッジの中から出ている光にうっすらと照らされ、辺りに飛び散った血飛沫が雪の上へ斑模様を描いていた。 薄暗い中でもどうにか顔の感じから、壮年の男性であろうと推察できた。 ビュッっと一陣の風が吹いた。そして、頭上からパラパラと雪が舞ってきてやがてズズズという音がした。 男は、直観的に屋根に積もっている雪が落ちてくるのだと察し、慌ててその場から離れた。 ドサササッ。ちょうど死体を覆うように雪が落ち、ややあってから窓が開いた。
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