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二時限目。
チャイムが鳴ると同時に、詠は準備室を出た。すると、教室にはちゃんと生徒が揃っていた。今度のクラスも十人ほどで、詠はまた原稿用紙の束を持って教壇へ立った。
生徒が起立すると、一礼した。しかし、起立しない生徒が一番後ろの席に三人いた。派手な成りの男子生徒たちだった。三人は何か談笑を続けている。詠はそれを見て、(へえ)と思うと、他の生徒たちに、
「着席していいよ」
詠がそういうと、生徒は着席した。詠はとりあえず、その目立つ三人衆は無視して、授業を進めようとした。
「今日から音楽の授業を担当する、櫻木詠です。今日はみんなのことを知りたいから、名簿順に名前と好きな音楽のジャンルや、アーティストを教えて欲しい。じゃあ、板谷くんからどうぞ」
言うと、その板谷と呼ばれた生徒は、どうやらその目立つ三人衆の一人だったようで、三人の真ん中に座って、踏ん反りかえっていた。
「えーっと、板谷くん? 自己紹介してくれないかな?」
詠が声を掛けると、その板谷は、
「せんせー。せんせーって、SOULINGのギターだったんすよね? なんでギターやめたんすか?」
ゆらゆら椅子を動かしながら、腕を組んでそう声を張った。詠はそれを聞いて、うーんと、悩むも、
「辞めてはいないよ。いつかまたギタリストとして活動したいと思ってる。板谷くんも俺たちのバンド知ってくれてるんだね。ありがとう」
詠が笑顔で言うと、その板谷は、顔を引きつらせて、頬を紅潮させ慌てるも、
「べ、別に。自己紹介は以上!」
言うと、他の二人とまた話出した。
詠は、いつの時代もこういう生徒はいるものだな、となんだか懐かしい気分になりながら、こいつらもロックしてんな、と思った。
「じゃあ、次の人、岡田さんどうぞー」
詠が何も気にせず進行させていった。
詠も高校の頃、目立つタイプの生徒だった。確かに、ヤンキーぽいファッションをしていたかもしれない。でも、詠は至って真面目で、勉強も運動も出来る、文武両道で、若いときから、女子から人気だった。
でも、そういうのもあって、他のヤンキーグループからよくケンカを売られていた。詠はそれを堂々と素手で相手をしていた。そんなことが重なっていくと、仲良くなるもので、そういう奴らとつるむようになると、そいつらが抱えている問題や、考えていることがよくかわるようになっていた。
だから、目の前にいる、板谷たちを見ても、詠は、何も動じることはなかった。きっと、彼らの目の前にある「何か」がパンク精神を生んでいることは間違いないだろうと思った。
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