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前回の授業と同じように、詠は原稿用紙を全員に渡した。詠は壇上で、
「じゃあ、この原稿用紙に、自分の思う音楽っていうのを書いてくれないか」
言うと、ほとんどの生徒は、その原稿用紙に目を落としていたが、後ろにいる板谷はつまらなさそうに椅子をギコギコ動かしている。
それを見て、詠は、
「板谷―。それやってくれたら、自分の好きなことしていいから。なんなら、この部屋から出て行ってもいいぞー」
言うと、板谷は、ふん、と鼻を鳴らし、
「ああ? うっざ」
それだけ言うと、適当に原稿用紙に何かを書いたかと思うと、立ち上がり、詠の方へ行き、
「はい、じゃ、遠慮なく」
言って、お供の二人を連れて教室を出て行った。
詠はそれを目だけで見送ると、原稿用紙を手にしてパイプ椅子に座った。
他の生徒はそれを見送ると、それから空気が一変した。さっきまで緊張していた空気がどことなく緩んだ気がした。
カサカサと原稿用紙にシャープペンの芯擦れる音がする。
詠は静かになった教室を確認すると、さっきの板谷の原稿用紙を見た。
『音楽なんてダサい』
その一文を見て、はは、と詠は笑った。ダサい、ねえ。そう思うと、板谷のことが詠はなんだか、興味が湧いてきた。
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