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ロックバンド、「SOULING」の解散ライブ。武道館で行われたそれは、チケット即日ソールドアウト、セカンドアルバム、チャートトップ10をキープしていたそのバンドは、本日をもって解散となった。
アンコールが三曲あり、ギタリスト、櫻木詠は、愛器である、テレキャスターを手に、楽屋でタオルを首にかけて項垂れていた。
そう、詠は解散に賛成派ではなかった。他のメンバーがどんどん、自分の音楽をやりたいと口々に言い始め、それから、このバンドでなければならないという理由もなくなってしまい、せっかく、今まで、努力で培ってきたものを無くす、というのは、ただただ悲しかった。
他のメンバーは楽しそうに今日のライブの話をしているが、詠はペットボトルの水をゴクゴクと喉に通すと、
「俺、学校の先生になるわ。じゃ、お先」
言って、ギターケースにテレキャスターをしまうと、そのままひとり帰ってしまった。打ち上げもしないまま、他のバンドのメンバーの声などスルーしてそのままひたすら歩いた。
これ以上ここにいても仕方ない、そう悟った詠は、楽屋を出て、裏口からタクシーを拾うと、そのまま家へと帰った。
詠は高校を卒業後、音大へ進み、そこで音楽教師の課程を得ていた。その当時から一緒に活動してきて、早今年で八年だった。なのに、今更。まだ俺はロックをしていない。もっと貪欲に音楽を欲していた。
なのに、解散してしまった。詠はタクシーの窓から流れる、街のライトが波のように流れていくのをじっと見ていると、自分の手のひらを見た。それを何度か握ると、ギターを長年弾いてきた指の皮が厚くなっているのを確かめると、「よし」と小さく呟いた。
そう、この日を境に、櫻木詠の生活が一変する。
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