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『私立 飛石高等学校』
これが、今日から詠の通う学校だ。詠は、ギターケースを手にして、初夏の朝の光を受け、校門の前で仁王立ちしていた。
生徒がぞろぞろと眠そうな顔をして入ってくる。
詠は、着なれないスーツを纏い、茶髪のまま、じっと立っていると、ある女性徒に声を掛けられた。バンドマンだった詠は、女性ファンからの支持も多く、そのどことなく中世的で、猫のような顔だちはより目立っていた。
「あの、すみません。関係者の方以外はこんなとこにずっといてもらうと困るんですよね」
その生徒は、真っ黒な長い髪をポニーテールにして、腕章をつけていた。そこには「生徒会」と書かれており、詠はそれを見ると、
「ああ、俺、ここの関係者。今日からここで音楽教師になるんだ。櫻木詠っていうんだけど、君、生徒会の子?」
詠が真っ白な歯をのぞかせて笑うと、その女子生徒は、ぺこりと一礼し、
「あ、そうだったんですね。おはようございます。私は、折原菫と申します。生徒会長をしています。先生、職員室とかお分かりですか?」
折原と名乗ったその生徒は、涼やかに笑みを零すと、詠は頷いて、
「ああ。大丈夫。なんかさ、こう、青春って気持ちをさ、感じてたかったからここに立ってただけだから。そろそろ行くわ。じゃあね、スミレちゃん」
言って、詠は手を振り校舎の中へと進んで行った。スミレは名前を呼ばれたことにポカンと口を開けた。
詠は校舎内に入ると、合服姿の生徒や、夏服姿の薄着の生徒たちを見送ると、顔を少しあげて、空気を吸う。
「なんか、若い匂いがするなー」
そう言っていると、周りにいた生徒が、茶髪で、ピアスをしている派手な大人を訝し気に見る。それから、何か言われているのがわかると、苦笑しながら、職員室へ向かった。
職員室、と書かれたプレートを見上げると、詠は扉を勢いよく開けて中へ入った。
「おはようございます! 今日からお世話になる、櫻木詠です!」
開口一番、大きな声で挨拶すると、職員室内にいる、すでに朝からくたびれているような様子の先生たちに一瞥され、「宜しくお願いします」「おはようございます」と口々に言われると、ある女性の先生と思しき人が近づいてきた。
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