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二時限目が始まった。
詠の初授業である。詠は授業開始を告げるチャイムを聴くと、準備室から音楽室に入った。
眺めると、そこには十人ほどの生徒がまばらに席に座っていた。音楽室は自由席なのだ。各々、好きな席に自由に座っている。
制服姿の生徒たちが詠の方を一斉に向くと、起立した。詠は教壇に上がり、机に名簿と一年生用の音楽の教科書や資料を置くと、
「おはよう! 初めまして! みんな、今日から音楽の担当をする、櫻木詠って云います。みんな、着席していいよ」
言うと、生徒はきちんと一礼して着席した。詠はそれを見ると、良い生徒ばかりじゃないか、と心で呟いた。それから詠は黒板に自分の名前をチョークで書くと、くるりと生徒の方を向いて、
「じゃあ、初めての授業だし、今日はみんなのことを教えてもらいたい。名前と、そうだな、好きな音楽、アーティストでもジャンルでも良い。それをひとりひとり教えてくれるかな」
言って、名簿を読み上げる。
「じゃあ、新垣真由さんからどうぞ」
言われると、新垣と云われた女子が起立して、
「新垣です。えっと、好きな音楽はクラシックです」
はきはきと答える生徒に、詠はうんうんとうなずきながら、
「クラシックね。その年で好きなんて渋いね」
言われて、その生徒は笑みを浮かべて座った。それから詠は次々名前を呼んで生徒が答えるということを繰り返して、自己紹介を続けていた。詠はちゃんと生徒の答えにリアクションも入れて応えていたため、生徒はみな、満足そうだった。詠も生徒の表情が明るくて、楽しい授業の開始に、教師としてのスタートを良いものにできそうだと実感していた。
「えーと、次は、最後かな。渡辺龍二くん。どぞ」
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