青春を手に入れろ!

7/24

55人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
 詠が窓際の一番前を選んで座っていた生徒を呼ぶと、その生徒はすくっと立ちあがると、緊張した面持ちで、でも、どこか上気した顔で、 「は、はい! 渡辺龍二です! 僕は、SOULINGの大ファンです! とくに、Utaさん……、せ、先生の大ファンです! 先生に憧れてギター始めました! か、解散ライブも行きました!」  興奮しながら言う渡辺という生徒。詠は、目を丸くして驚いたが、ふっと優しく笑いかけ、 「……そっか。俺のファンなんだ、君。そっか。ありがとう。よろしく」 「は、はい! 先生の授業を受けられるなんて、本当に嬉しいです!」  そう目を輝かせて云う渡辺に、目頭が熱くなるのを覚える詠。詠はそっと目を抑えると、 「よし! みんな、自己紹介ありがとう! じゃあ、早速今日の授業だ! みんなのことも知りたいし、音楽についての作文を書いて欲しい。原稿用紙配るから、これに、みんなにとっての音楽というものを思い切り自由に書いて欲しいんだ」  言って、原稿用紙を持って、生徒の席に配る。  生徒はそれを全員に渡すようにして配ると、詠は壇上に戻り、 「制限時間は今日の授業中まで。それまでに書いて、出来た人から俺のところに持ってきて。早くできた人は、好きなことしてていいから」  そう言われると、生徒は原稿用紙にすぐ目を落とし、各々書き始めた。  詠はそれを見ると、パイプ椅子に座り、音楽雑誌を広げて読み始めた。どんな音楽観を生徒が持っているか、それが詠の楽しみであり、授業方針の参考にしようと思っていた。音楽雑誌をめくりながら、静かに作業をしている生徒たちをちらりと見ると、それも自分が教師になったことを実感させてくれるものだった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加