秋の日

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「サユちゃん、あんたのこと気にかけてたよ? 『マサくん、元気にしてますか』って。元気じゃないなんて言ったら心配するだろうから、まあまあねって誤魔化しておいたけど。」 サユさんは……こんな僕のことを気遣ってくれるのか。まだ、マサくんって呼んでくれるのか。 そんなことを聞かされたら、胸が熱くなって仕方ない。“焦がれる”とはこういうことか。 「ほら、シャキッとしなさい。明日、ストーカーと決着をつけるよ!」 頼もしい姉さんの声に僕は頷くことしか出来なかった。 その翌日。 姉さんはいつもの僕の通勤時間よりも少し前から駅で張り込んでいた。 藤峰さんの印象は伝えてあるから、彼女が現れて改札付近にしばらく留まっていれば、一度も会ったことのない姉さんでも容易に彼女を特定することができるはずだ。 僕はと言えば、部屋着からラフな外出着に着替えボディーバッグまで背負って、いつでも出られるようにスタンバっていた。 そこにピロンと音が鳴る。 『藤峰、確認』 スマホに姉さんからのメッセージが表示された。いよいよだ。 『改札の内側であんたを待ってる模様』 『どこがサユちゃんに似てるのよ? 全然似てないじゃない!』 『時計を何度も確認してる そろそろ動くかな?』 『結構粘るね まだ待ってる』 『ふじみね~ 早く動きなさいよ! 自分だって会社に行かなきゃいけないでしょうに』 開きっぱなしのトーク画面には姉さんからの報告メッセージが並び、こっちが返信する暇も与えてくれない。 刻一刻と対決する時が迫り、口の中の渇きを覚えた僕は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すとゴクゴクと一気飲みした。 『改札出た! そっちに行くよ』 『私も追いかける』 歩き出した姉さんのヒールの音が聞こえてくるようなメッセージに、僕は【了解】のスタンプだけを押した。
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