再会

6/12
1158人が本棚に入れています
本棚に追加
/179ページ
「じゃあ、失礼します。」 「紗雪ちゃんは入院のこと、知ってるのか?」 僕はもう話を切り上げたくなって会釈したのに、岡崎さんは構わず続けた。しかも、相変わらずサユさんのことを馴れ馴れしくちゃん付けで呼ぶし。 「あれから連絡を取り合っていないので、彼女は僕の病気のことは知りません。」 母親同士はまだ時々電話で話しているようだが、うつ病のことはサユさんが気にするといけないから何も言っていないらしい。 サユさんのことだから僕がうつ病になったと知ったら、きっと負い目や責任を感じるだろう。たとえ僕にもう恋愛感情を持っていないとしても。 「そうか。紗雪ちゃんには悪いことをしたと思ってるんだ。実家に帰ったんだっけ?」 今頃そんなことを聞いてどうするつもりだ? 岡崎さんの意図が読めなくて苛立ちを覚えた。 「別れてすぐは実家に帰りましたけど、今どうしてるかはわかりません。彼女は心機一転頑張ってるんです。今さら僕のことを思い出させるようなことはやめて下さい。」 つい興奮して言い募ったら、息が乱れて苦しくなった。 屈みこんで肩を上下させる僕の様子に気付いた母さんが、慌てて駆け寄って来た。 「大丈夫!? あの、もうこれ以上は」 「すみません、話し込んでしまって。じゃあ、お大事に。」 引き留めたことを申し訳なく思ったのか、すぐに岡崎さんは瑛太くんの手を引いて歩き出し、華絵さんも僕らに会釈してその後を追った。 僕が倒れ込むようにソファーに座ると、母さんも隣に座ってゆっくり背中を擦ってくれた。 その手の優しさに心がだんだん落ち着いてきたと思ったら、母さんがとんでもないことを言い出した。 「あの人ね? まあちゃんをたぶらかした女は。」 「どうして!?」 「どうしてわかったかって? わかるわよ、母親ですもの。」 「そっか。でも、たぶらかしたっていうのはちょっと違うかな。あの人のバカな誘いに乗ったのは僕なんだから。」 「それでもあの人が誘わなければ、こんなことにはならなかったでしょ? まあちゃんは心を病んでこんなに痩せ細ってしまったっていうのに、あの人はあんなにふっくらして幸せそうで……」 華絵さんがふっくらしているのは産後間もないからだとは思うが、悔しそうに歯噛みする母さんにそれを言っても無駄だろう。母さんはまだブツブツと呟いていたが、僕には何を言ったのか聞き取れなかった。
/179ページ

最初のコメントを投稿しよう!