第1章

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 大阪府東大阪市菱屋東(ひしえひがし)453。住所の表記の仕方が変わってしまい、今では無くなってしまった番地らしいが、ボクの生まれた場所である。  長いこと本籍地だったのだが、家ではなく、病院の住所だ。  家は近辺の人間なら、誰でも分かるような同和地域にあったので、子どもが生まれれば、住んでいる場所ではなく、出産した病院で本籍を取得するのが、その地域ではあたりまえなのだと聞いた。  物心つく前に親の離婚で土地を離れたので、そこへ住んでいた当時の記憶はかなり少ない。――お泊まり保育で寝ていたときに、女の子に起こされて、まるで当然のことのように、「星を見にいくよ」と言われ、運動場に連れ出された。遊具に腰掛け、眠たさに耐えながら星を眺めた記憶がある。記憶が確かなら、ボクは連れ出される時に、自分の布団も一緒に持っていこうとして、かなり手こずったはずだ。  その保育園の運動会で、“よーい、ドン”でみんなが走って行く中、ボクはスタートを切らずに、一生懸命走っていくみんなの背中を見ていた。先生が来て、ボクの手を引きゴールまで連れて行った。  とにかく、おっとりした子だったのである。  蚊取り線香の匂いがする中、父親がバットの素振りをしているのを眺めていた記憶もあるが、彼が野球をしていたと聞いたことはないので、これは実際にあったことか自信が無い。
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