第1章

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 覚えている人生最初の記憶は、保育園の頃よりももっと古く、沢山のアコースティックギターが並んでいる部屋で、父と彼の友達がなにか会話をしていた。その脇で退屈したボクは、並んだギターの穴の中にピックをひとつずつ入れていくという作業を始めた。  それに気づいた大人2人は慌てて、穴からピックを出そうとするが、手こずっていた。――ボクは怒られなかった。  ひとつのギターに入れるピックの数はひとつ。シンプルなルールの単純作業と、大人が必死にピックを取り出そうとしている姿。そのどちらもが面白かった。  一番最初の記憶が、楽しいことなのは幸せだと思う。  あとは、真っ白で毛の長い、猫のトミーが居た。  その後、父親方との交流が完全に途絶えた分けではなく、小学生の時と中学生の時に、数回程度、尋ねて行ったことがある。その時のことは別として、ボクがそこへ住んでいたといってよい頃の記憶は、上記したものが全てだ。――どれもおぼろげで、夢で見た光景のようだ。
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