第1章

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 ボクと弟を連れて、家を出た母は、1ヶ所に落ち着く性質の人ではなかったので、長い間、いろんな場所を転々としたが、ホームグラウンドは大阪だった。  東京、大阪、広島、大阪。というように違う土地へ行っては、1年も経たずに、大阪のどこかしらに戻ってくるのだ。  早いときで2ヶ月。長くて1年半というスピードで引越しを繰り返す生活は、ボクが中学生になるまで続いた。  もう20年近くも四国の地方都市に落ち着いているが、それはこの場所が気に入ってるからではなく、ここへ流れついた頃には、もう母には無頼の生活を続ける力も運も残っていなかった。  土地とそこへ住む人たちの悪口を言いながら、若い頃のように、簡単に今の生活を捨て、希望に満ちた新天地に移ることの出来ない自分に歯がゆさを感じながら、日々老いていく。――母はそんな生活を、19年も続けている。  子どもの頃のそうした生活の影響か、母の性格を受け継いでいるのか。ボクは時折、流転の生活に憧れる。――持ち物も友達も、全部そこへ置いていって、新たな場所で新たな生活を送る。  出会いと別れが人より多い分、思いでだけがやたらとかさばって、他にはなにも残らない。なにも。  多くの人が必死に守るものはなにも身につかず、得るものといえば、自分自身にしか分からない、目に見えず、言葉にも出来ぬものだけ。  旅行なんかに行ったって見つかりっこない、人生の悲哀がそこにはあるように思える。
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