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亀裂
星野みなと様
この度は東央大学20××年度法学部一般選抜後期試験を受験していただきありがとうございました。合否判定の結果ですが残念ながら不合格となりました。
「んおあぁああああああ!」
試験が終わってから約二週間、今日この瞬間まで腹のなかに溜まり続けて大きくなった不安や期待を一気に口から吐き出した。
見間違えたのかもしれない。
そう思ってもう一度見てみる。
受験番号を間違えてはいないだろうか。
日程はあっているだろうか。
しょうもない希望を抱きながらサイトに記された不合格通知を何度も何度も見返した。
こんなことをしているうちに合否発表の時間から二十分も経っていた。
この時の俺は頭が働いていなかったのだろうか。
ちょうど二十分前に届いていた無神経でデリカシーのないメッセージを誤って開いてしまった。
微妙に可愛くない、なんだかシュールな猫のスタンプが顔半分くらいの大きい口を開けて「やあ」と呟く。
このスタンプを使うのは琴音しかいない。
俺の合否結果を知りたいのだろう。
「ごめん、東央落ちたから。一緒に大学行けねーな」
「そっか」
「うん」
そのまま会話は途切れてしまったが、1分ぐらい経ってからまた新しいメッセージが現れた。
「あのさ、久しぶりにどこか行かない?」
そうだ。
受験が終わったら2人でどこか遠いところにいこうなんて約束をしていた。
一年前はその日のことをずっと考えながら過ごしていたものだが。
「無理、俺まだ受験終わってないから」
「え?浪人するってこと?いいじゃん、第二志望受かってたじゃん」
「そこは行かない」
「なんで?あたしみなとに会いたいよ」
俺だって琴音に会いたい。
「でも、琴音は前期で受かったし」
「あたしは関係ないし、みなとは十分頑張ったじゃん。東央じゃなくていいよ。東央って日本一なんだよ?」
その東央大学に受かってるもんな。
お前は。
「うん」
「1日でも無理なの?」
本当は会いたいよ。
「うん、浪人するなら次は上位で合格して差をつける」
「じゃあ四月も会えないの?」
「そう言ってんじゃん、差をつけるんだから」
「誰と差をつけるの?なんでそこまでして勉強したいのよ」
これ以上琴音に置いていかれたくない。
「お前はそこまでして俺に勉強して欲しくないってこと?」
流石に言いすぎだってわかってる。
けど、こうやって強く言わないといつもみたいに琴音に振り回される。
琴音はいつもそうだ。
一年前のデートの時だってそうだった。
観覧車を降りたところでいきなり走り出して、見失ったと思ったら一人でパフェを食ってやがる。
やっと見つけたと思ったら「遅いよみなと、甘いの好きでしょ?食べよ」
探す俺の身にもなってほしいものだ。
あいつか何を考えているのか俺にはわからない。
そしてあいつも俺の気持ちなんかわからない。
馬鹿なんだ。
あいつは馬鹿のくせに勉強ができる。
いや、ほんの数月前までは俺の方ができたじゃないか。
あいつは人に頼るのが上手いからだ。
そうやって人を使って、いろんな人に支えられながらここまできたんだ。
俺は人に頼ることだけは苦手だった。
だから•••
「なんで?勉強してほしくないなんて言ってないじゃん」
「そうじゃなかったらなんだよ。お前、俺のこと見下してるだろ。そうやって偉そうにするの好きだろ」
「なに言ってんの?」
なに言ってんだろ。
「実際そうだろ」
「意味わかんない」
その後、俺たちは初めて一ヶ月の間連絡を取らなかった。
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