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太陽ヶ丘駅を降りると目の前に満開のひまわりが広がっていた。
絵の具をそのまま塗ったような深い青空と、ぎらぎらと肌を焦がす太陽は夏そのものだった。
俺たちは特に好きです!付き合ってください!みたいな儀式はしなかったが、この頃にはお互いなんとなく付き合っている感じになっていた。
俺の勘違いじゃなければ。
「ひまわり日和だー!」
大宮さんは俺を置き去りにしてひまわり畑に飛び込んだ。
ひまわりよりも背が低い大宮さんはひまわり畑の中に完全に隠れてしまって見えなくなってしまった。
いつか大宮さんは俺の元から離れて見えなくなってしまうのだろうか。
俺のものではなくなってしまうのだろうか。
大宮さんが離れていってしまってから、そんな恐怖に襲われた。
焦って大宮さんを探す俺をよそに、太陽は俺の少しだけ茶色くなった肌をさらに焦がしていった。
首元がべったりと汗で濡れていく。
苦手だ。
太陽は苦手だ。
ただ暑苦しいからじゃない。
やつは常に堂々と自信を持ってこの世界を照らし続けている。
太陽とは完璧、完全な百点満点の存在なのだと俺は勝手に思っている。
そして全ての生物に認められている唯一の存在なのではないだろうか。
そんな太陽が俺は苦手だ。
まるで不完全な自分と比べられているような気持ちになってしまう。
太陽と俺のことをわざわざ比べる奴なんかいるわけないのに。
俺が勝手に比べてしまっているだけなのに。
くだらないことを考えながらひまわり畑を歩き回っていると、ようやくひらひら揺れる白いワンピースの裾が見えた。
「いた」
「あたしね、星野くんに謝らないといけないことがあるの」
「あたしの誕生日は3ヶ月前の4月21日だから」
「え、なんで嘘ついたの」
「星野くんと一緒に来たくてつい…。でも、あたしたちって付き合ってるってことでいいんだよね」
「…俺はいいよ」
この人はどうして俺なんかを好きになってしまったのだろうか。
自分のことは一番わかっているようで一番わからないと言うが、いったいこんな俺のどこに惹かれたんだろう。
ああ、くだらない、くだらない。
楽しいはずの時にまでこんな余計なことを考えてしまうのは太陽のせいだ。
「じゃあさ、あたしのこと名前で呼んでくれる?」
「わかった。でも嘘はつくなよ。本当の誕生日は俺が毎年祝うから」
「ありがと、絶対忘れないでね」
「わかった、約束だ。琴音」
大宮さん、いや、琴音だけが俺のことを受け入れてくれているような気がした。
そして、永遠に俺のことをこの憧れの眼差しで見てくれるような気がしていた。
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