滴る天の下

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 「もったいない…」突然アキがぽつり、と零す。  「何がさ。それよりも、程々にしとけよ。じゃあ俺行かなきゃ」  そう言うと僕は、先程意地悪のつもりで奪った傘をアキに差し出す。何も本当に借りようとしたわけじゃない。アキが風邪を引かないように、ちゃんとすぐ返すつもりだった。だというのに…  「いらない」アキはそんな僕の優しい計らいを跳ね除けた。  「いらないってお前なぁ」  「今はこうしていたいの。この痛いくらいの雨粒が、今の私には必要なの」  アキの頬を水滴が伝う。しとしとと肌を撫で、顎まで流れてぽつりと落ちていく。それはさっきからずっとそうだったのだろうけど、臆病な僕はこのとき初めてそれに気がついた。  僕はそっと傘を閉じる。傘に付いていた水滴がぱっと弾ける。僕の体は滴る天の下にさらけ出され、無慈悲な雨粒と行き遅れた冬の風がたちまちのうちに温度を奪っていった。  「ほんとだ、痛いくらいに冷たいな」僕は思いっきり笑ってみせた。  「バカみたい」アキは苦々しそうに笑った。  「ほら、でもこうしたらちょっとはマシだろ?」  そう言って、少し躊躇ってから、僕は彼女の手に自分の手を重ねた。そして壊れないように、痛まないように、そっと力を込めて握った。     
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