天使作戦

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天使作戦

 ようやく字を読めるようになったばかりの小さな女の子は、教会に飾られた1枚の絵から目が離せなくなった。  この山沿いの田舎街出身の画家が描き、教会に寄贈されたその天使の絵は今日お披露目されたばかりだった。  青空の下で風に揺れる小麦のように輝く長い金髪に、強い太陽の光をはね返す白銀の雪原のように純白な翼を持っている。誰が見ても感嘆するほど美しい天使の絵だ。  「パパ、ねぇパパ!」  女の子は興奮ぎみに父親の太ももをバシバシと叩いた。  「痛い、痛いよエル」  父親がそう言っても、目をらんらんと輝かせたエルは太ももを叩く手を止めなかった。  「パパ、すっごくキレイ」  「そうだね」  父親は気もそぞろに相づちを打つ。早く神父に挨拶をしに行きたかったのだ。  「ねぇパパ、私天使に会いたい。どうやったら会えるの?」  「天使に会う?」  うーん……と父親は考える。  「100日間みんなのお手伝いをして教会にお祈りをして報告するんだ。いい子にしていれば、きっと天使が会いに来て願い事を叶えてくれるよ」  「本当!」  「あぁ、本当さ」  父親はかなり適当な嘘をついた。エルはまだ幼いから、どうせすぐ忘れるだろうと思ったからだ。もし覚えていても続けられるはずがないと、その時はたかをくくっていた。
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