0人が本棚に入れています
本棚に追加
「いや~、それがさ、すごくお腹空いてて食堂にソッコーで行くことしか考えてなかったんだよね~。それで財布、教室に置いてっちゃって。」
そう言いながら、彼女は僕の方に向かってくる。
「あぁ、なるほどね」
僕はそう答え、カバンを机の横に掛け直す。
「あれ、お昼ご飯は?」
自身のカバンから財布を取り出した彼女が、未だに食堂に向かう訳でもなく、弁当を取り出すこともしない僕を不思議に思ったのか、そう聞いてきた。
「それが、家に財布置いてきちゃってさ。」
「へぇ~。意外とおっちょこちょいなんだね」
「そっちがそれ言う?」
自分のことを棚に上げた彼女は、何故か得意げな顔をしている。
どうしたのか聞こうとするが、
「よし、それなら私が憐れな子羊に天の恵みを授けてあげちゃおう!」
うん。先手を取られた。
「いいの?」
と、一応聞いておく。
「もちろんいいよ!」
満面の笑みでそう言われてしまえば、断るに断れない。
素直にお礼を言おうとするけど、
「その代わりね!?」
うーむ、素早いカウンター。
「来週の英語の課題、ちょっとでいいからさ、手伝ってちょうだい!」
「…しょーがない。さすがに腹減ったし。」
「やった!」
こうなりそうな気はしてた。
「よし!なら食堂行こ!私もお腹空いた!」
彼女はそう言って、教室の扉に向かってパタパタ掛けていく。
「…まあ、いっか」
財布を忘れたことで最初はどうしようかと思ったが、こうなったのなら、これはこれで。
課題もたぶん、ちゃんと仕上がるだろう。
しかし、ね。せっかくだし。
もちろん感謝はしている。
ただ、彼女があまりにも楽しそうだったので、もう少し彼女の反応を見てみたかったので。
そう思って、僕は、待っている彼女の方にゆっくり歩いていっていった。
「遅ーい!」などと言われそうだな、などと考えながら歩いていく。
でもまあ、彼女は彼女らしく、いつも通り、明るく素敵なのだろうな。
最初のコメントを投稿しよう!