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「首尾よく通貨改鋳はうまくいきました。これでもうマリオンなど怖くはありません」
シャーロックが笑みを浮かべながら玉座に座るデュークにそう報告すると、
「うむ……」
デュークは言葉少なに答えた。
「いかがなさいましたか?」
デュークの硬直した面持ちを見て、シャーロックは不思議そうに尋ねた。
「ではお主に訊こう。この通貨改鋳、真にこの国のためになると思うておるか?」
「はい。勿論でございます」
シャーロックは問いかけに対しそう丁重に答えるが、デュークの疑いの眼差しは消えない。
「地下室」
デュークが一言、そう告げる。するとシャーロックの肩がピクリと動いた。
「やはりそうなのだな」
背中から突如聞こえてきた声にシャーロックは思わず振り向いた。
そこに立っていたのはハーディングだった。
「お前の家の近くの地下室から見つかったぞ。偽金造りの機材一式と、金銀ミスリルの塊が」
ハーディングは高らかにそう告げる。
「お前は何のことを言っているんだ?」
シャーロックはそうとぼける。
「とぼけても無駄だぞ。お前は私腹を肥やすために1年前から偽金造りに手を出した。精巧に作ってはいたが、それでもいずれは発覚すると踏んでいた。そこでお前は通貨改鋳を企てたんだ。通貨改鋳を一手に引き受ければ偽金と全く同じものを本物として作ることができる。そうすれば巨万の富を築ける、という算段だ」
ハーディングは鋭い目でシャーロックを睨みつける。しかしシャーロックは、
「濡れ衣もいいところだな。証拠はあるのか?証拠は」
そう食い下がる。しかしハーディングは首を縦に振った。
「お前の地下室にある機材。あれは特殊な加工が必要で作ることができる者は限られているようだな。貨幣を作るためのものだ。当たり前のことだがな」
「それが、どうした?」
「機材職人から証言を取った。あれは1年近く前、間違いなくお前に納品したものだとな」
「あの野郎……」
ハーディングの言葉を前に、シャーロックは舌打ち交じりにそう漏らした。
「認めるんだな?」
ハーディングはそう告げるが、シャーロックは首を横に振った。
「いや、仮にその機材が私のものだとしても、直ちに私が偽金をつくったことにはならないだろう?証拠としては機能していないな」
シャーロックは勝ち誇ったようにそう言い放った。そんなシャーロックをハーディングは冷たい視線で射抜く。
「残念ながらそうは問屋が卸しませんね」
ハーディングはそう告げると、シャーロックに1枚の紙を見せつけた。
「これはあなたが偽金づくりのために雇っていたゴブリン達の署名です。貴方に命じられて1年近く前から偽金づくりをさせられていたことを克明に証言しています」
ハーディングはそう告げると、その紙をデュークに手渡した。
「あいつら、裏切ったな……」
シャーロックは苦虫を噛み潰したような声でそう吐き捨てる。
「ゴブリン達は言っていました。今は2ヶ月前に比べて物価は倍以上。でもあなたから貰える給金は変わらない。暮らしは苦しくなる一方だと。だから今の仕事を失っても惜しくはないとね」
「くっ……」
シャーロックはそうつぶやき、崩れ落ちるように膝を床についた。
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