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造幣は急ピッチで進められた。シャーロックの指示は的確かつ迅速であり、あっという間に新しい貨幣の見本が完成。見た目の大きさは変わらず、中身の比率だけミスリルと金の割合が減った代物が1週間もしないうちに市場へと出回るようになった。新しいミスリルペニーはあっという間に普及し、その次の週にはもう巷では古い貨幣は見なくなってしまった。1枚たりともマリオンに渡らないようにするため、シャーロックの指揮の下総力を挙げて回収がなされたからである。
回収作業を終えたシャーロックは宮殿へと足を運ぶ。
「デューク様。ミスリルペニーの回収、全て滞りなく終わらせました。これでマリオンが命をいくつも手に入れるような真似はもうできますまい」
シャーロックはほくそ笑みながらデュークへとそう報告した。
「うむ。よくやった」
デュークはそう労いの言葉をかけると、窓際へと歩いてゆく。
「愛しいスカーレット姫をそうやすやすと穢れた奴らに渡す訳にはいかんのだ」
デュークはそうつぶやくいた。西陽がきつくデュークの頬を射していた。
「本当によろしいのですか?」
「ん?そこに居るのはハーディングか?」
暫く窓の外を眺めていたデュークがそう言って振り向くと、白衣を身に纏い分厚い辞書を携えた骸骨がそこに立っていた。
「貨幣の改悪、私にはこの国に益をなすとは思えません」
「何故だ?軍事費を確保しつつ、宿敵マリオンの行く手を阻むこともできる。上策ではないか」
「目先のスカーレットに踊らされ大局を見失うと、国難に繋がります」
「……お主が有能なのは知っている。だが、私情を挟むのはまずいのではないか?」
デュークはそう指摘した。ハーディングとシャーロックが極めて仲が悪いということは王国内では公然の秘密となっている。私的な面のみではなく、人間との関係において共存を目指すハーディングと強硬路線を目指すシャーロックでは統治理念も違うのだ。
「いえ、私は極めて客観的な意見を述べております。要らぬ外敵を作ることは魔族に無用な圧迫を生むこととなり、ひいては王国の滅亡へとつながりかねません」
ハーディングは必死に諌めようとするが、デュークは首を頑として縦に振らない。
「こうしている間に我が国はマリオンの手により侵略されている。首を取られる者も出ている。それをお主は指をくわえて眺めていろと申すのか?」
デュークはハーディングをそう諭す。
「ですが、このままでは……」
デュークは説得を試みるハーディングに背中を向け、自らの寝室へと戻っていった。
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