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混乱
ミスリルペニーの改鋳から2ヶ月後。デュークはスカーレットにあてがっている部屋のドアを叩く。
「気分がすぐれませぬ」
スカーレットの声がドア越しに聞こえてきた。
「そなたのような身も心も美しい者がまだ人間界などに未練を持っているとは……あのような穢れた者どものことなどもう忘れればよいではないか」
デュークはそう優しく語りかける。
「お引き取りください」
優しく、しかし冷たい声がデュークの耳に入ってきた。
デュークはスカーレットを「さらった」身ではあるが、決して無碍な扱いをしている訳ではない。むしろ自らの次に広い部屋を与え、最高級のベッドを部下に用意させた。食事も一流のシェフに作らせるなど、来賓級の待遇をしている。
「まぁ仕方がないな」
デュークは少しだけ肩を落とすと、玉座の前へと戻っていく。するとそこに歩兵隊長のキングリザードがひざまずいていた。
「王様、申し上げます。ゴブリンの群れが無礼にも直訴を申し出て来ましたので、先程捕らえました」
「なに?ゴブリンが?」
下級魔族のゴブリンがわざわざ城まで出向いてくるのは非常に珍しいことだ。
「まだ刑罰は与えておらぬな?」
「はい……」
「話を訊きたい。通せ」
「はっ!」
いくら縄を打たれているとはいえゴブリンが玉座の間に通されるのは極めて異例だ。キングリザードは面食らいながらもデュークに頭を下げ、牢屋へと向かっていった。
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